日本フィル・第609回東京定期演奏会

昨日は今にも降り出しそうな空模様の中、日本フィルの定期に出掛けました。4月定期は元音楽監督の小林研一郎ことコバケンの指揮です。
そのコバケンが生まれて初めて指揮するというブルックナーの第4交響曲が聴きどころ。好き嫌いの分かれる指揮者ですから、どうなりますか。
浦田健次郎/北穂に寄せて(世界初演)
     ~休憩~
ブルックナー/交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
 指揮/小林研一郎
 コンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーラー/江口有香
まず先に世界初演作品に触れておきましょう。
作曲家の浦田健次郎は1941年東京生まれ。藝大のトロンボーンを卒業した後で作曲科に入り直したという経歴。今日の指揮者コバケンとは同期なのだそうです。
そのコバケン氏は作曲科を卒業した後で指揮科に入り直したことから、浦田氏とは作曲科で微妙にすれ違っていたわけ。で、この二人の間には友情が芽生え、指揮者コバケンに対し作曲家は「ウラケン」と呼ばれているのだとか。
ウラケンは1975年から母校の藝大作曲科で後進の指導にも当たり、今春定年退職。コバケンも藝大で指揮を教えていますから、同職の誼もあって今回の世界初演が実現したようですね。日本フィル・シリーズじゃありません。
「北穂に寄せて」という作品は、北アルプスの穂高岳に独力で山小屋を建てた男に促されて書いた作品。この山男・小山義治氏の知遇を得たウラケンが実際に穂高岳に登り、山男の執念に驚嘆して書かれたもの。描写音楽ではないそうです。
しかし実際に聴いてみると、例えば後半に出る3種類の打楽器(ティンパニ、大太鼓、トムトム)だけの長い強打などあたかも高山を襲う落雷のようでもあり、何処と無く描写的な要素があるようにも聴かれるのでした。
演奏時間14分ほど、相当な大音量が鳴り響く曲ですが、作曲のスタイルとしては斬新なものではありません。如何にも大学の先生の作曲見本。
フルート2(2番奏者ピッコロ持替)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、打楽器2人、弦5部。打楽器は大太鼓、トムトム、タムタム、木鉦という編成。
なお作品の依頼者である小山氏は一昨年、米寿直前に亡くなられたそうで、病床で完成した楽譜はご覧になったそうですが、今回の世界初演は奇しくも追悼コンサートになってしまいました。
さて本命のブルックナー。正直に告白すれば私はコバケンが苦手なのですが、これは見事な演奏でした。コバケン独特の癖のある解釈が、ここではブルックナーそのものにピタリと合致し、些かのわざとらしさを感じさせないのです。
意外にも、ブルックナーはコバケンの個性に最も適した作品だと思われます。生まれて初めて振るという緊張感が良い方向に作用したのかも知れません。
使用した楽譜は通常演奏される稿のハース版。一部にコバケンの手が入った「コバケン版」が演奏されるという噂もありましたが、スコアに一切手を加えていないオリジナル。最後のホルンも第1楽章の冒頭主題を出しません。
唯一改変したと言えば、木管楽器を全て倍管にしたことと、第3楽章の一部や第4楽章のコラールに「指揮者の唸り声」というパートを加えたことくらいでしょうか。
日本フィルも冒頭こそ緊張感故の些細なミスがあったものの、全体に透明で迫力あるブルックナー・サウンドを聴かせました。特にブラス軍、第2楽章で美しいソリを受け持ったヴィオラ・セクションにブラヴィです。
演奏が終了して相変わらずのコバケン・スピーチがありましたが、今回は本定期で定年退職を迎えるヴィオリスト・山下進三氏を紹介するもの。
氏は旧財団時代から活躍してこられた方で、豊富な経験と独特のキャラクターを持った古参。故近衛秀麿親方の最後の弟子(指揮者の)という知られざる一面もあって、そんじょそこらの若手指揮者では太刀打ちできない古狸でもあります。
本当のラスト・コンサートは二日目の今日でしょうが、そのうち「指揮・山下進三」というチラシが見られるかもね。
舞台には集音マイクが林立。恐らくCD収録が行われていたのだと思います。

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